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すみだ北斎美術館オープン記念イベントを開催しました

11月 05日 すみだ北斎美術館オープン記念イベントを開催しました

ふとした疑問から生まれたワークショップ

「葛飾北斎の代表作、神奈川沖浪裏が浮世絵ではなく肉筆画だったら、ヨーロッパの絵画や音楽に影響を与える事はあったのだろうか?」
浮世絵を印刷技術という観点で捉えると、凸版印刷の多色刷りです。一度に大量に複製できる印刷物だったからこそ、葛飾北斎は世界一有名な日本人になったのかもしれません。もし浮世絵が印刷物であるなら、現代のものづくりの技術で複製しても面白いのではないか。
そんな思い付きから、金属加工の浜野製作所と、印刷業のサンコーという2社の町工場がコラボレーションして、このデジタル版画ワークショップは生まれました。そして、墨田区との共催という形で、開館前のすみだ北斎美術館でワークショップを開催する機会を頂きました。

デジタル版画とは?

町工場が作るこのデジタル版画の特徴は、通常の版画が北斎のような絵師による下絵から始まるのに対して、出来上がった画像をスキャンし、データ化するところから始まります。そのデータを、サンコーの持つ画像処理技術を活用して、色ごとのデータに分解します。
そのデータを使って、浜野製作所にてレーザー加工機で版木を彫刻していきます。

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版画では、色の数だけ版木を使います。本来は彫師と呼ばれる職人が長い時間を掛けて版を作成します。そのため版木はとても貴重で、一般の人に刷りを体験してもらうことは難しいのが現実です。でもレーザー加工機を使うことによって、1版あたり1時間もせずに版を作る事ができるため、このようなワークショップが可能になりました。短時間で出来るといっても、出来上がった版木はデジタルの恩恵でとても精巧です。

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ワークショップスタート

ワークショップでは、デジタル版画とは何か?なぜ町工場が北斎の作品を再現しようと考えたのか。そんなお話しをさせて頂いたあと、すみだ北斎美術館の学芸員さんから、北斎作品の魅力についての解説を頂きました。

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北斎はすみだ北斎美術館のすぐ近くで生まれ、人生のうちで90回を超える引っ越しをしたが、その大半が墨田区内であった。など北斎の人柄に関するお話しから、彫師や摺師にどのように色を指定するかと言った技術的なお話しも伺いました。そして、いよいよ刷り体験の始まりです。

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まずは絵具がつきやすいように湿らせた和紙の表と裏を確かめます。そして、版木に絵具をつけて紙を版に乗せて行きます。紙を版に乗せる時には、見当と呼ばれる目印に紙をピッタリと合せて行きます。すべての版をこの見当を使って位置を合わせていくことで、多色刷りをしても絵柄がずれずに綺麗に刷ることができます。ちなみに、この見当という言葉は、今の印刷業界でも同じ意味で使われています。
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見当に合わせて紙を乗せたら、バレンでこすっていきます。

浮世絵では主版(おもはん)と呼ばれる線画の部分から刷っていきますが、デジタル版画の場合には、仕上がりの良さを狙い薄い色から刷っていきます。

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時間をかけて何色も刷り重ねていくので、浪裏の作品を長い時間を掛けて、色々な観点から楽しむ事ができます。「水しぶきはどうやって表現されているのだろう。」「嵐に飲まれそうな船に乗っている人達はみんなで何をしているんだろう。」刷りながらそんな事を考えてしまいます。
最後に紙製のフレームに収めて完成です。

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北斎×ものづくり

北斎の浮世絵をものづくりと言う観点でとらえ直してみた時に、あることに気づきます。浮世絵は絵師というアーティストと、彫師、摺師という職人のコラボレーションで作られますが、版木で使う山桜の木を切って江戸まで運び、製材する人達が居たはずです。そして彫師が使う彫刻刀は、目が詰まって硬い山桜の木を彫れる鋭い切れ味を持っており、そこには刀鍛冶の技術が関係していたことでしょう。そして、摺師は紙を濡らし、複数回の刷り工程を行いますが、それでもボロボロにならない上質な和紙がなければ、多色刷りは成立しませんでした。そう考えると、様々なものづくりの技術を土台として、世界に誇る北斎の作品が生み出された。そんな見方もできるのかもしれません。墨田で、ものづくりに関わる立場として、私たちにしか語れない北斎の魅力を、この様なワークショップを通じて一人でも多くの方にお届けできたらと思いました。
今回ご参加頂いた皆様、そして開催にあたりご協力を頂きました皆様、有難うございました。
最後に、ご参加頂いたみなさんの記念撮影をUPします。一部、撮影出来ていない方もいらっしゃるようですが、ご容赦ください。