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デジタル本「全巻一冊 北斗の拳」の開発舞台裏!(後編)

1月 03日 デジタル本「全巻一冊 北斗の拳」の開発舞台裏!(後編)

世界最大のクラウドファンディングサイト・Kickstarter日本版の、ローンチ第一弾プロジェクトのひとつに選ばれ、300万円の目標に対し、約2,300万円の出資を集めたことでも話題になったデジタル本「全巻一冊 北斗の拳」。紙のマンガの見た目や質感は残しつつ、電子書籍の利便性を備えた本の製作には、co-lab墨田亀沢のメンバー、篠原慶丞さんが代表を務める、篠原紙工が深く関わっています。

Kickstarter プロジェクトページ

9月27日『「全巻一冊 北斗の拳」の開発舞台裏』というイベント内で、プロジェクトメンバー4名のトークセッションが開催されました。

トークセッション

高木さん(左)プラスチック部分の設計。頭脳派
坂松さん(左中)企画・ディレクション。行動派。

篠原慶丞(右中)篠原紙工代表取締役・factory4F代表 構造の立案・部材の選定
増渕さん(右)紙の部分の試作を担当。構造のアイデア出しにも貢献。

<出会い>
坂松さん
この話が出てきたのが、昨年10月末~11月頃でしたね。電子機器に紙の筐体をまとうというのは、前代未聞。その道のプロを探すしかない。と思ったものの、そもそも製本業界とのつながりもなく……やみくもに関係者へ会いに行き、そのたびに「経験が無いから」と断られました。どうにもならなくなって「製本 無理難題」で検索したんです(笑)。すると、印刷加工連のHPが見つかり、篠原紙工にたどり着いた。今まで断られ続けていたので、話を最後まで聞いてくれて、感極まりそうになったのを覚えてます。

篠原さん
Web経由で相談が来たときは、正直商売にならないと思いましたね(笑)。でも、返信に対する返信が来て、この人たちは本気だと。小西さんが来社して、これからの紙についての熱い思いをひたすら話してくれたのですが「最終的に電子デバイスに行くけど、その中間地点的な製品をつくりたい」という話題に対しては、最終的に電子に行く踏み台にされるということか…。とも感じました。でも、ただのステップになるかどうかは、自分次第。ひとまず始めてみようと思いました。

<ものづくりスタート>
坂松さん
私たちは普段、筐体をつくるのに樹脂や金属を使っていて、篠原さんが扱うのは紙。単位が違うんですよ。0.01mmとかの世界で話される。

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増渕さん
私たちも、これまで0.5mm単位で話したことはありましたが、それを上回る具体的な数値で指示が来たのは初めてで、驚きました。

篠原さん
私にとって新鮮だったのは「シーズン」という言葉というか、進め方でしたね。

高木さん
私たちは、試作工程を要件ごとに細かく分けてつくるんです。その一工程を私たちは「シーズン」と言っています。シーズン1では機能を確かめ、それが出来そうなら次の要件はこれ。という形でひとつずつ検証をしていく。

篠原さん
精度や図面のすり合わせに2か月かかったときは、もう無理かもと思ったこともありました。ただ、試作工程がシーズンで細かく分かれていたので、気持ちが何とか持った気がします。シーズンごとにひとつずつ課題を解決していくというステップは、非常に勉強になった。(なりました。)今までは、1回の束見本をつくるときには、出来上がりから、生産性、強度まで考えなければいけないと思っていたんです。

増渕さん
当初、私は、言われたものを作るという感じだったんです。その時は、試作工程をシーズンで刻んでいることさえ知らなかった(苦笑)。

篠原さん
しかも、シーズン1の試作はとても原価が高い構造で、我々なら無理と言ってしまうような状態だった。

坂松さん
最初はたたずまいを確認するためだったので、それで良かったんです。それを検証して、次のゴールを決めて、新しいドラマ(シーズン)が始まる。

篠原さん
シーズン4までは、正直なところ、僕たちも受け身で進めていた気がします。でもシーズン4で電子機器が入ったときに、スイッチが入りましたね。シーズン5で、小口が紙になってページがめくれるようになった。

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坂松さん
4から5になって、これは形になるぞ! と確信したときから、チーム全体のスピードが上がりましたよね。試作が納品されると、すぐ写真を撮って、チームでひとつのシーズンを越えたよろこびをわかちあえるようになった。

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篠原さん
シーズン4までは製本というよりも、工作に近かった印象です。それが5の段階で、一気に製本の技術が必要になった。製本技術が、数千年かけてたどり着いたところに、電子書籍も一気にたどり着いた気がしましたね。

<試作品の検証について>
篠原さん
僕らの業界では考えられないような試験をしているんですよ。

坂松さん
ボタンの強度の検証では、10万回打ち込みました。開閉強度は、2万回の開閉強度を設定しましたね。本の購入者を「電車を1回乗り換えて通勤する会社員」と設定すると、往復を考えて1日4回~5回の開閉が想定される。全巻読むと何日かかるか。それに余裕値を加えて設定します。

篠原さん
今まで、自分が感覚値で言っていたことがいかにいい加減だったか、思い知らされた経験でした。反りに対するテストも、生半可じゃない。

高木さん
湿度60%で、50度の空気中に置いて反りが出るかといったテストをしました。

増渕さん
束見本が強度のテストに使われる経験なんてなかったので、開閉テストや落下テストを何万回も繰り返すなんて、本当に驚きました。

篠原さん
初めてお会いしたときは、上質紙やマット紙の違いも知らなかったのに、いつの間にか、紙の銘柄を高木さんが語り始めたんです。自分が、何十年もかけて培ってきた知見を、あっという間に共有し、しかも論理的に説明されたことで、逆に、紙業界にはまだまだ伸びしろがあると感じましたね。多くの方が紙の特性や価値を知ってくれたとき、さらに僕らが気付かなかったアイデアを生み出してくれるんじゃないか。そんな気がしました。

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紙の価値を、デジタルのよさとともに高めた「全巻一冊 北斗の拳」。一般的な電子書籍は、著作権者からするとレンタルという扱いになり、作家への実入りが少ないのがデメリットでした。この本は、紙の本と同等の権利収入が得られます。購入者も、手元でコレクションでき、なのに一冊で全巻を持ち歩けるという、デジタルとアナログのいいとこどりができます。出版社や作家、購入者も応援したい仕組みになっている当プロジェクト。これからの展開が期待されます! (岡島)