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あえて紙の価値を考える「紙de ナイト」

12月 13日 あえて紙の価値を考える「紙de ナイト」

12月7日、co-lab墨田亀沢で「紙deナイト」が開かれました。

サブタイトルは「デジタルの時代に、あえて紙の価値を考える夜」。第一回は、紙の表現に技術面でかかわる3名のプレゼンをベースに、参加者のみなさんと紙の価値を考える場となりました。

co-labの各拠点から集った参加メンバーは、エディトリアルデザイナーやグラフィックデザイナーなど、紙を扱う方々を中心に総勢28名。会場は満席です。_MG_0058

紙そのものが、メッセージを伝える時代

トップバッターは、西谷浩太郎さん。紙の商社「平和紙業株式会社」で、デザイナーや広告代理店、印刷会社や製本会社に対する紙のコンサルティングをされています。今回は、書籍「デザインのデザイン」(2003 原 研哉)を引用しながら、紙の持つ役割の変化についてお話されました。

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これまで「無意識の平面」として、情報を載せ、人々に伝える役割を担ってきた紙。つまり、紙は単なるモニターでした。中の情報が重要で、紙がどんな質感や色でも、さほど関係がなかった。

しかし、出版や広告業界でのデジタル化は加速度的に進み、情報伝達メディアとしての紙の時代は、終わろうとしている。この先、紙にはどんな役割があるのか。西谷さんが注目されたのは、紙の持つ「感性機能」でした。

「感性機能」とは、温かみ、シャープさなど、視覚、触覚、嗅覚など五感を刺激する機能。

もうひとつ、紙が持っているのが「物性機能」。用途ごとに必要なスペックのことです。破れてはいけないから、強度の高い紙、価格を抑えたいから、安価な紙といった選び方ができます。

東日本大震災以降、クライアントから寄せられる相談が、物性から感性に関するものへと変化しつつあると西谷さん。安いから、使い慣れているから、ではなく「紙自体がメッセージ材」であるという認識が、徐々に広まっているそうです。

「伝えたいことを、より深く伝えてくれる紙を選ぶ流れが生まれている。紙が、モニターという役割を終え、素材としての魅力を放つ時代になる」という言葉がとても印象的でした。

 

「あなただけ」1to1ビジネスの中に紙の存在価値を見出す

続いて、co-lab墨田亀沢のチーフ・コミュニティ・ファシリテーターを務める有薗。

はじめに流されたのは、ある動画。ブラジルの航空会社が機内誌を使い、顧客満足度を向上させるというプロモーションでした。

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(参考)持ち帰り率100%! 世界に一つだけの『パーソナル機内誌』

https://markezine.jp/article/detail/22572

搭乗券の予約時、Facebookアカウントでログインさせることで、個人データを分析し、興味関心に合わせてカスタマイズされた機内誌を製作。座席についた乗客は、自分の顔写真が表紙を飾る機内誌を見つけることになります。乗客の100%が機内誌を持ち帰ったという事実は、データを活用した紙媒体の可能性を感じさせます。

データから直接印刷できるオンデマンド印刷機の普及が進み、印刷業におけるデータ活用は、この1、2年で格段に進化すると話す有薗。2014年に話題になったコカ・コーラの「ネームボトル」は、まさに、オンデマンド印刷あってのプロモーションといえます。

(参考)「コカ・コーラ」“ネームボトル”、250種類以上の国内最大規模となるデザインバリエーションでキャンペーンを実施

http://www8.hp.com/jp/ja/hp-news/press-release.html?id=1621830

1つのデータを大量に複製するのではなく、膨大なデータベースを個別に印刷したのです。全体の印刷ボリュームも減らさず、なにより「あなただけの商品」「あなただけの情報」を届けられる価値はとても大きい。

「デジタルマーケティングに対する理解を深め、全体のストーリーの中で『どこに紙や印刷を使ったら、人の心に一番響くのか』を考える時代が来ている」とまとめた有薗。司会とプレゼンターの二刀流、お疲れさまでした!

 

紙の価値を説明しなくていい時代にしたい

ラストは、製本を手がける有限会社篠原紙工の篠原慶丞さん。ipadが世に出たとき「紙はなくなるのかもしれない」と感じ、その頃からずっと紙の価値について考えてきました。

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考え抜いてたどり着いた紙の価値は、この4つ。所有欲を満たす、機能性、伝える力、感動です。

「愛着ある物を手元に置いておきたい。本棚に並べたい」という思いを満たすこと。

左上でリング綴じをすることで、リングが書く手に当たらず、めくりやすい印刷加工連のノートのように、高い機能性を備えること。

本の造形そのもので、作家の世界観を伝えること。

モニターで見たときとは違う、心の動きを生み出すこと。

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この4要素を突き詰めることが、紙の未来を創る。と篠原さん。篠原紙工がパートナーとしてかかわった「全巻一冊 北斗の拳」は、その例です。

(参考)革新的な電子本「全巻一冊 北斗の拳」

https://www.kickstarter.com/projects/196861017/fist-of-the-north-star-innovative-ebook?lang=ja

本の手触りを残した電子書籍で所有欲を満たしつつ、場所をとらず、貸し借りも簡単な機能性も兼ね備える。漫画に夢中だった頃の記憶が伝わり、話の中身だけでなく、テクノロジーが詰め込まれた一冊で、思い出のシーンに出会えることにも感動する。

加えて、この本には英訳ボタンがあり、世界中のファンが楽しめます。

「デジタル化は、紙の敵じゃない。僕にとって紙は、人に感動を伝える手段でしかない。たまたま製本屋だったから、今のところ、紙が自分の思いを伝えてくれる良き相棒なんです」

 

プレゼン後の懇親会も、盛り上がりました。(盛り上がりすぎてぶれました)

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プレゼンの冒頭、西谷さんの「わざわざ『紙の価値』なんてテーマに集まるのは、やっぱり紙の未来に危機感を持っているから。業界が絶好調なら、こんなこと考える必要性を感じないと思う」という言葉に、うなずく方もいらっしゃいました。

そんな中、それぞれ考え抜いた『紙の価値』を語る人がいて、それを聴いてみたいと感じた方がこんなにもいる。

プレゼン後の懇親会は、全然お料理が減りませんでした。(美味しかったんです)

多くの方が、時間を忘れて話し続けていました。

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(完全に余談ですが、西谷さんと有薗の横顔感がそっくりという声が)

残ったローストビーフを噛み、あちこちで、考えが交差する光景を眺めていたら、あぁ、きっとある、未来。と勝手ながら思ったのです。

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