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あえて紙の価値を考える「紙de ナイト」Vol.3

8月 02日 あえて紙の価値を考える「紙de ナイト」Vol.3

7月4日、co-lab墨田亀沢で「紙deナイト」が開かれました。「デジタルの時代に敢えて紙の価値を語る夜」というコンセプトで、これまで2回開催してきました。約一年越しの第3回のテーマは「デジタルツールによるデザインの自動化」。

デザインにデジタルツールが必要というのはわかりますが、デザインって自動化できるもの?

そんな素朴な疑問に答えてくれたのが、co-lab渋谷キャストのメンバーさんである株式会社hooopの武田英志さんがデザインしてくださった「紙deナイト」のチラシ。浮世絵という和の伝統的な世界をモチーフに、チラシのすべてが別デザインなんです。
背景や着物の差し色、文字の配置などを自動でバリエーション化してくれたのが、日本HP社のMosaicとCollageというソフトウェア。デザイン一枚一枚異なるので、大量に同じものを刷れるオフセット印刷機ではなく、HP Indigoというデジタル印刷機を使っています。

トークのトップバッターは、その日本HPからサンコーに営業にやってきた千葉純さん。彼にはHP Indigoで世の中をクリエイティブに変えたい、表現の可能性を広げたいという思いがあり、「紙deナイト」の企画への協力を快諾頂きました。

デジタル印刷機はオフセット印刷に必要な「版」をつくる必要がないので、一枚一枚異なったデザインで印刷できます。そのような印刷をバリアブル印刷と呼びます。自分の名前が印刷されたDMなども、バリアブル印刷の一例と言えます。そんな「バリアブル印刷」という技術を活かした事例でもっとも有名なのがコカ・コーラ社の“ネームボトル”ではないでしょうか。皆さんも、たくさんあるコカ・コーラのボトルの中から自分の名前を、探しませんでしたか?
https://www8.hp.com/jp/ja/hp-news/press-release.html?id=1621830

このようなバリアブル印刷のデザインを、一つ一つ手作業で作っていたらとても大変。でもデザイナー向けの無料のソフトウェアHP SmartStream Designerを使えば、バリアブルデータを自動生成できるそうです。

HPのソフトウェア、自動可変(Mosaic)は、たった一枚の絵柄から異なる複数のデザインを自動的に生成。ベースデザイン1枚から、ソフトウェアが一部分をつまみ食いしてデザインを勝手につくってくれるので、同じデザインにはならないそうです。IllustratorやInDesign にプラグインするソフトです。

Mosaicを使った例として、東京花火大祭で配られたうちわがあります。女の子の浴衣の柄も、女の子がつぶやく川柳も少しずつ異なる15,400種類のうちわです。一緒に行った人と「あれ、ちょっと違うね」と、コミュニケーションの起点になるデザインです。
自動生成はデザイナーのコントロールが効かないところが面白い。意図しないクリエイティブをつくっていくという部分を醍醐味に感じてもらいたいとのことでした。

続いて、HPのソフトウェアを使いこなした天才デザイナー、株式会社hooopの武田さんからチラシの作り方をご説明いただきます。

モチーフに選ばれたのはトリッキーなアイデアマンとして知られる浮世絵師、歌川国芳の『山海愛度図会 続きが見たい』という錦絵。錦絵は世界的にも多色印刷の先駆け。平面のレイヤーを重ねた構造なので、パーツに切り分けて可変させやすいという特徴もMosaicにぴったり。今回は、MosaicとCollage両方の機能を組み合わせ、多彩なデザインを生み出しました。よく見ると、落款の種類も捺されている場所も違うこだわりよう‥‥‥!

印刷業界の方も、デザイナーさんも前のめりになってくださったところで、ファシリテーターの有薗を交え、3人でトークセッション『デジタル化がもたらすデザインの新しい可能性』を行いました。

デジタル化がもたらすデザインの新しい可能性

有薗 武田さん、今回ソフトウェア使ってみていかがでしたか?

武田 デザイナーは、制約の中でどれだけ自由に遊べるかを考えることには慣れているけど、全部違うデザインができるというのは未体験で怖いくらいでしたね。あとは、ソフトの機能を理解して、どう使えるのか探るのに時間がかかりました。

千葉 デザインの自動化って、単に作業が自動化されて楽になるというよりは、意図しないクリエイティブが生まれる部分を楽しんでいただくというイメージなんです。

有薗 自分でコントロールできないクリエイティブ、偶然の産物で生まれるクリエイティブというキーワードが千葉さんから出ましたが、偶然のデザインというと、どんな表現が考えられますか?

武田 例えば、Mosaicを使ってパーツが重なったところに想定外のモアレが起こしてそれをデザインにするとか。ソフトの持つ機能をいくつか組み合わせると、予期せぬ変化は起こりやすいと思いますね。

有薗 日本HPって変わった会社ですよね。印刷機を作るだけでなくソフトウェアまでつくって、デジタルだからこそできる新しい可能性を追求したいという観点を持っている。

千葉 ぶっちゃけてしまえば、印刷機をつくっている会社なので印刷機の稼働を上げたいし、デジタル印刷機を使って印刷関連の会社さんに儲けてもらいたいっていう話ではあるんですけど(笑)。ただ、他の印刷機メーカーとは違うことをしたいという社風はあります。

デジタル印刷機を求める会社には版を出さなくて良いことで生産性を高めたいというニーズがある。でも、実際に導入すると最初は手間がかかるんです。でも使いこなせれば、オフセット印刷機とは違うことができるという強みを、ユーザーさんの間で共有したい。印刷だからこその面白さ、印刷じゃなきゃできないクリエイティブを増やしたいですね。

有薗 “ネームボトル”はやっぱりすごかったですよね。自分のために最適化されたリアルなものって受け取るとうれしい。前回、武田さんには紙のバグっていう話をしてもらったけど、それに通じるのかなと思いますね。

デジタル技術を活かしたデザインの多様性が生きるのはどんな場面?

武田 パーソナライズされたものなのに、それが大量にできる楽しさってありますよね。パーソナライズ自体は、手紙や手作りというアナログな手段に戻っているということ。経典や聖書の時代に戻っている感じが面白い。でも、デジタルだから手ではつくれない量を生み出せる。結局、受け取ったときにうれしいと感じるかどうかが、これからのポイントになるかも。何度も言うけど、だから“ネームボトル”はすごいんですよ(笑)。

千葉 そうですね。年ごとに“ネームボトル”に印刷された名前のバリエーションは増えていきましたね。
デザインの多様性が生きるのは、実は「リアルな場」なんです。バリアブルの商品は“ネームボトル”も、売り場にいくつか並んでいて、ちょっと違うと思うから興味を持たれるし、デザインが全部違ううちわも、一人ひとりに配られたままだと、違っているのか同じなのかもわからない。みんなが集まって、多様性を認識して初めて「おもしろい!」と感じてもらえる。人の生活は結局アナログ。コミュニケーションを誘発する印刷媒体が一体感を生みだすきっかけになると思っています。

武田 ただ、名前ではなくデザインが違うパッケージの食品ってそこまで売れない気がします。パッケージが違うからって集めるという行動に結び付けづらいんですよね。固定ファンがいるファンビジネス系はいいと思う。写真集や展示会の図録や、アーティストの物販などがそう。アーティストの物販で、購入したファンの名前を入れられれば価値が上がる。スマホケースとかスマホ用のシールとか、愛着を持てるものの印刷にも向いていると思いますね。愛着という点では、自分やペットの写真を使ったものは値段が高くても売れると思う。

スポーツチームやアイドルはコンテンツを大量に持っているのに活用されていない感じがあります。自分の好きな写真を12枚選んでカレンダーをつくれたりすれば価値を感じてもらいやすい。コンテンツを活かしきれてないクライアントにもデジタル印刷の魅力をすすめたいですね。

有薗 ファンは、デザイン違いがあれば全種類をコンプリートしたくなる。書籍の表紙もデザイン違いもいいかもしれない。「これを買い逃したら次はない!」という感覚が、購買欲を刺激する気がします。

千葉 女性はパーソナライズの魅力を感じる傾向にあると思います。ナイキのパーソナライズも女性にはウケがよい。それに比べると男性は「このためにこれを買う」と目的的に買い物がする傾向がある。

武田 印刷物を受け取った時点ではなく、活用されるシーンまで想像することが「本当にうれしい」ものをつくれるかのカギですね。

有薗 そうですね。印刷業界にいると「この技術や機械から、何が提供できるか」ということに意識がいってしまいがちです。もしかすると、その意識から逃れられなかったからこそ、受け取り手を驚かせたり喜ばせたりできるプロダクトを生み出せなかったのかもしれない。
武田さんの言葉で、受け取り手がどう感じるかの重要性を再認識しましたし、受け取り手の心を動かすプロダクトってなんだろうと考えると、千葉さんが話された「自分ごと化」がひとつの答えになる気がします。

トークに続いて、懇親会が開かれました。

みなさんそれぞれ、考えることがあったようで、その後の懇親会はあちこちで会話の応酬! お料理まだいっぱいありますよ~。

実際にデジタル印刷機を活用された商品を見て、いろいろと考えをめぐらせるデザイナーさんもちらほら。こうやって、新たなクリエイティブが生み出されるんですね。新しい紙の価値を世の中に問いかける、第一歩が今夜かもしれません。

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co-lab墨田亀沢 チーフ・コミュニティ・ファシリテーター 有薗