デザインと印刷技術と製本技術の化学反応
エディトリアルデザインを中心に、出版・印刷物、各種プロモーションツールなどのアートディレクション・デザインを手掛けるhooop(co-lab千駄ヶ谷メンバー)さんが、co-lab墨田亀沢を訪問されたのは昨年の11月頃のことでした。
ご自身のポートフォリオを制作するにあたり、その冊子のカバーを作りたい。というご相談でした。
その時にhooopさんが持ち込まれたデザインは、手書きの線を型押し表現するというものでした。しかし、手書きの線のような細かな表現は、凸版を使った空押しでは難しく、凹凸の版を使ったエンボス加工を行う必要があります。その場合、型代が大きく発生してしまいます。
そのため、デザインの方向性を考え直すことになりました。
このブックカバーを通じて表現したい思いを伺ったところ、「やわらかいメディアにカタい手法を カタいメディアにやわらかい手法を合わせる 」というhooopさんの強みを表現したい。また、活版印刷などを使って、自らの手で作りたい。この2つの外すことが出来ない要素として残りました。
「やわらかさとカタさ」このキーワードを伺ったときに、co-lab墨田亀沢のメンバーであるモアナ企画 三田大介さんが、「すみのわ」という活動を通じて出会った、のぞみペーパー(NOZOMI PAPER Factory)が思い浮かび、ご提案をしました。
のぞみペーパーは、南三陸の福祉作業所で作られている、牛乳パックから作られた和紙です。活版印刷をすることで大きく凹凸が生まれる程に柔らかい風合いが特徴です。この紙を使って活版印刷を使ったシンプルなデザインを施すことで、やわらかさとカタさの両方を表現できる。さらには、復興支援にもつながる。ということで、新しいコンセプトが決まっていきました。
この冊子はA5サイズなので、ブックカバーに必要な紙のサイズはA4よりも少し大きいくらいのサイズになります。そのような紙を使う場合、通常はA3などの大きなサイズで仕入れ、断裁をして必要なサイズにします。しかし断裁をしてしまうと、和紙を透いたときに出来る耳がなくなってしまいます。そのため、このブックカバーのサイズで、和紙を透くための木枠を新たに作って頂き、耳のある紙を作って頂きました。
デザイナーと職人のこだわり
そんな想いとこだわりが詰まったのぞみペーパーが出来上がり、作業日の2/14となり、co-lab墨田亀沢にhooopの皆さんがお越しになりました。ちょうどバレンタインデーということで、チョコレートの差し入れ、有難うございます!
早速刷り上がった冊子と、サンコーのメンバーが制作したサンプルとを組み合わせてみます。
そこで問題が発覚。
本の厚さはあらかじめ聞いていましたが、設計の段階で紙の厚みを考慮に入れていなかったために、本に合わせてみるとブックカバーが微妙に小さく、本がしなってしまいます。テスト段階では薄い紙だったので、問題にならなかったのですが、厚い紙だと紙の厚さが影響を及ぼしてしまいます。さらに、風合いを求めて和紙の耳を残したことで、活版印刷機のなかで垂直が取れず、印刷が微妙に斜めになってしまいます。
hooopさんとサンコーのメンバーが困っているところに、強力な助っ人が登場!篠原紙工という製本会社の社長であり、co-lab墨田亀沢のメンバーでもある篠原慶丞さんが、たまたま仕事をしにいらしていて、サポートに入ってくれました。職人目線で1ミリ以下の精度での修正をかけていきます。のぞみペーパーは手で漉いた和紙なので、紙の厚みにもばらつきもあります。その中で、ブックカバーのサイズの最適値を探し出していきます。
両面テープの貼り方にも、製本職人の技があるのです。
篠原さんのアドバイスの結果、導き出された数値をもとに、図面を修正。本番の製造に入ります。
本生産のスタート
まずは、紙の4辺のうち、張り合わせることで見えなくなってしまう1辺だけを、カッターで切り落とします。これはその後の筋入れや活版印刷の際に、直角を出すためです。次に、「折り加工」をするための筋入れを行います。この筋入れを通常はプレス機を使ってやるのですが、今回はロットが少ないため、鉄筆を使って紙に線を入れていきます。
ゾーンに入って、黙々と筋入れ作業をしています。こんな風に、紙を折るための筋が入ります。
そして活版印刷。先ほど手作業で直角を出した辺を基準として、印刷をかけていきます。活版印刷らしい凹凸を出すためには、印圧を高めたい。でも高めすぎると紙が柔らかいために、紙がへこみすぎて汚れがついてしまう。そんな微妙な匙加減で刷っていきます。
刷り上がった状態。カメラを向けるとお茶目な表情を見せるhooop代表の武田英志さん。
最後に折り筋に合わせて紙を折って、両面テープで加工して完成。サイズもぴったりです。
最後に皆さんで記念撮影。
デザイナーの「こういう表現をしたい」という思いと、印刷会社の紙に対する知識や印刷の技術力、さらに製本会社のノウハウ。co-labというインフラを通じてそれらが一つになり、化学反応が起きることで、誰か一人が欠けても出来上がらなかった、素敵な作品に仕上がりました。
co-lab墨田亀沢 チーフ・コミュニティ・ファシリテーター 有薗悦克