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あえて紙の価値を考える「紙de ナイト」Vol.6

紙deナイトは「デジタルの時代にあえて紙の価値を語る夜」と題して開かれるイベントです。今回の会場は今までのco-lab墨田亀沢ではなく、パソコンの前です。ウィズコロナ時代において「紙 de ナイト」もオンラインで開催されました。
テーマは「コロナの時代に印刷で抗菌する」。
コロナウイルスの影響でデジタル化が急進していく中、印刷にできることを考えます。「神回!」という感想が出るほどの一段と白熱した夜になりました。

目に見えない機能をどう表現するか?

まず初めは、株式会社サンエープリント西村和高さんに「抗菌印刷」についてご紹介していただきました。抗菌印刷とは、印刷面の上から抗菌効果のある塗料をコーティングする表面加工です。抗菌効果は抗菌塗料が剥がれない限り、半永久的に持続します。一般的なニスインキと同様に材質による制約が少ないのが特徴で、幅広い活躍が期待されています。参加された皆さんは、抗菌印刷に興味津々の様子。たくさんの質問が寄せられました。
Q:ニスとしての機能もありつつ抗菌も作用してるということですよね。技術的には 冊子に抗菌印刷を使用することも可能ですか?
A:可能です。しかしコストは通常の2倍かかってしまうので、冊子では表紙などのしっかりと触る部分にのみ抗菌加工をかけるのがおすすめです。
Q:使用用途として真っ先に思い浮かぶのはパンを包む紙でした。少し高級なパンなら抗菌印刷のコストを考えても需要があると思う。パンの包装の一部に抗菌加工をした紙を使えば菌の増殖を抑えられますか?
A:抗菌加工の紙と接している部分は効果があります。しかしすでに存在する菌を殺す効果はない。「清潔な状態を維持することができる」と考えると分かりやすいです。
抗菌加工の紙を使えば、食品をビニールなどでパッキングしてから箱詰めをするという二重の工程も減らすことができるかもしれません。これから重宝される技術でしょう。しかし抗菌印刷は、見た目上は透明なニスでありその強みがわかりづらいという課題を抱えています。西村さんはS I A Aという抗菌機能を証明する規格を取得しても、コストに対する付加価値をなかなか理解されないと言います。
この問題にはブランディングを事業とする参加者から鋭い意見がありました。
「抗菌作用という機能そのものではなく、抗菌印刷の持つメッセージ性を利用するという考え方がいいと思います。ブランディングを提案する立場としては、これから抗菌印刷という方法を提案できる自分たち自身を誇れると思います。これからは先進的で面白いことを提案できることが強みになる。激変する時期に、このセミナーで先駆的なことを勉強するのはとても意味があることだなと思います」
紙deナイトは既存の技術をクリエイターの視点から捉え、新しいアイデアが生まれる苗床になっていると感じました。

コロナウイルスへの効果に期待、殺菌光触媒

続いては、市場開拓GOODS発想人という変わった肩書を持つ小杉博俊さんから「殺菌光触媒 N F E2」についてのプレゼンです。殺菌光触媒は銅・銀粒子を使用した環境にも優しい殺菌効果のある物質です。光触媒の表面にカビ菌やウイルスがつくと、水分と光に反応した銅・銀粒子から発生した銅・銀イオンの強力な殺菌力がカビ菌やウイルスを分解します。今までは建物の外壁に塗ったり、空気中に噴霧したりして使用されてきたそうです。また現在、熱で固着するという殺菌光触媒の特性を活かすため、より低温の80度から硬化できるように改良中だそうです。この光触媒を印刷に応用できれば、より可能性が広がると考えている。という説明がありました。
すると先ほど抗菌印刷を紹介してくれて西村さんからこんな提案がありました。
「弊社ではランプ(発熱する)を使用したU V印刷をしています。殺菌光触媒の成分を見る限りうちの印刷機でニスと同様に紙面に塗ることができそう。もしよろしければテストをさせていただきたいと思います」他にも参加されていた印刷会社の経営者からは、自社のUVインクジェット機のUVランプを使って固着させられないかテストしたいとの申し出がありました。U V印刷ではU V光を照射して専用の顔料を印刷面に定着させる方法のこと。このわくわくする提案にメンバー一同、前のめりで耳を傾けます。
また殺菌光触媒自体の原材料が90%水だということに着目し、殺菌光触媒を混ぜ込んで抄紙するというアイデアも。実現されれば、素材としての紙のあり方自体が変わるかもしれません。話が進むにつれて、今まさに歴史的瞬間に立ち会っているという感じがしてきました!
また殺菌光触媒は高濃度では透明性が低くなる点について、グラフィックデザイナーからは「弱点も逆手に取れるんじゃないか」と語ります。「不透明性をデザインの効果として使ったら面白いのではないか。2度塗りとか厚塗りとか色んなパターンを試したらどうなるか。独特の粒子感などがデザインの一部になり得るのか、すごく興味があります。殺菌作用にはもちろん期待していますが、デザインにも応用することができれば最高だなと思います」といった提案も。
殺菌光触媒については今まさに試行錯誤を重ねている段階です。提案者である小杉さんは「いろいろな方にいろいろな方法を教えてもらって、とてもワクワクしています」と胸を躍らせています。抗菌印刷の技術をもとに殺菌光触媒が活躍する日が楽しみです。
今回は初の完全オンライン開催。はじめはコロナウイルスの暗い影を感じた「紙deナイトvol.6」でしたが、印刷技術のこれからの時代を生き抜く力を感じました。
今後の展開に目が離せません。
co-lab墨田亀沢 チーフコミュニティファシリテーター 有薗悦克
 

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