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co-lab墨田亀沢の毎日

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パネラー写真

トークセッションのご報告

3月20日のグランドオープニングパーティの中で実施されたトークセッションの内容をまとめました。当日は、クリエイター代表と、地域産業代表の2名が、それぞれの立場から意見を出し、活発なセッションとなりました。

地域産業とクリエイターが同じ現場に立つことで化学反応が起き、イノベーションが起こっていく。co-lab墨田亀沢は、そんな化学反応が起きる場にしていきたい。そんな風に思いました。

パネラー写真

テーマ:「地域産業×クリエイティブで広がる可能性について」

パネリスト

ファシリテーター

有薗

各パネラーの紹介に続き、co-lab墨田亀沢をやろうと思った経緯について説明をさせて頂きたいと思います。

まずサンコーの略歴から。1967年に創業し、印刷の中間工程である製版業を営んで来ました。子供のころには、暗室で薬品の臭いがして、会社は怖いところってイメージがありました。その後、1991年に現在の場所に移転。1995年にDTPをいち早く開始し、その後印刷業に進出。今はスカイツリーの公式グッズを作ったりもしています。

そんな会社がなぜシェアオフィスを作ろうと思ったかについて、墨田区に対して新もの作り創出拠点整備補助金のプレゼンテーションで話した内容から抜粋してご説明したいと思います。プレゼンテーションでは1・印刷業界の抱える課題、2・グラフィック系のクリエイターの抱える課題、3・両者の課題から導き出される施設のコンセプトと言う流れで説明をしました。

まず印刷業界の抱える課題については、この数字をご覧頂きたいと思います。墨田区内の印刷会社の数の推移ですが、20年前から10年前の10年間で2割が廃業したのですが、その後の10年間でなんと4割の会社が事業を畳んでしましました。この理由は、web等の新しいメディアの台頭により市場規模が縮小し、さらに価格破壊が追い打ちを掛けたことにあります。その結果、区内の中小の印刷会社は大半が下請けですが、下請けとして仕事を待っていても仕事は来ない。そんな状態になっています。そんな中で、印刷を待つのではなく、「こと」を起こしていく必要があるのですが、そのためのクリエイティブな人材を社内に抱えられない。そのために、変革したいけど出来ない。というのが、印刷会社の真の課題だと思っています。

次にクリエイターの抱える課題についてですが、墨田区内にはすみだクリエイターズクラブと呼ばれるクリエイターの集まりがあります。そのメンバーと、最初の頃にこの施設のコンセプトについてディスカッションをしたのですが、その際に印刷の町にいるにも関わらず、彼らが「印刷屋難民」であることがわかりました。紙見本が手に入らない、大判のインクジェット出力ができる場所がない。製本の相談を誰にしたらよいかわからない等々。印刷会社の我々から見ると、5分で解決してあげられるような問題に悩んでいる事がわかりました。

印刷会社は自らの変革のためにクリエイティブな人を求めている。クリエイターは、印刷会社の技術や施設があれば、より質の高い仕事ができる。両者がお互いを求めているのであれば、それを一つにする「場」を作ればいいのではないか?そのように考えて、「印刷工場直結のシェアオフィス」というコンセプトを作り出しました。

その結果この空間ができあがったわけですが、この空間コンセプトについて、デザインされた本多さんに説明してもらいたいと思います。

本多 リーフ・デザインパークの本多と申します。このco-lab墨田亀沢は、印刷をテーマにしているということで、まずは壁をCMYKの4色に塗り分けています。さらにそれをDICナンバーとCMYKの表示を付けています。また、足元にはゾーニングを分ける意味でトンボを描いてあります。個人的には、ロッカーの番号をレーザーカッターで刻印したのですが、それが気に入っています。
有薗 有難うございます。続いて、パネラーの皆さんの自己紹介をお願いします。
田中 春蒔プロジェクトの田中と申します。弊社は、クリエイティブ全般の企画・運営や、デザインコンサルティングなどをしている会社で、co-labの事業は2003年に森ビルさんの協力のもと、六本木で最初にオープンしました。現在は、千駄ヶ谷、西麻布、二子玉川、渋谷、代官山の5か所があり、墨田亀沢が6か所目になります。
co-labの特徴は、 Shared Collaboration StudioとCreation Do Tankの2つの言葉で表現されます。Shared Collaboration Studioとしては、長屋のように緩やかに周囲と繋がった環境の中でお互いが何をやっているか感じながら、刺激を受けながら仕事を出来る環境を提供しています。そしてCreation Do Tankとしては、co-labのメンバーで協働して一つのプロジェクトに取り組んでいます。例えば地方の繊維会社の自社ブランド化を手掛けたり、渋谷の再開発に提携して取り組んだり、そのようなことをフリーランスのクリエイターの集合知を持って課題に取り組んでいます。
今回、有薗さんと出会い、印刷会社が10年で4割も廃業している状況。それに対して、クリエイターが集まる場所を作ることで新しい印刷の形を作っていきたい。という熱い思いを受けて、このプロジェクトに協力させてもらうことにしました。今までのco-labでは不動産を持っている事業者さんから弊社が運営を受託する形でしたが、今回は運営をサンコーさんにお任せするというアライアンススキームを初めて導入しました。
有薗 有難うございます。初めてお会いして打ち合わせ1時間半は、本当に熱い時間でしたよね。あの時があって今があると思うと感慨深いです。
続きましては郡司さんお願いします。
郡司 墨田区の産業経済課の課長の郡司です。墨田区では、新もの作り創出拠点整備補助金という事業を行っており、co-lab墨田亀沢はその補助に採択された事業となっています。この補助金の目指すものについてご説明させて頂きます。
もともと墨田区には最盛期には9700件の町工場がありました。それが、どんどん減少して、現在は3000件を切るまでに減ってきています。このままいくと、江戸時代から続く「ものづくりの町」としてのアイデンティティが失われてしまう。そうなれば、スカイツリーができて観光が盛り上がっては居ますが、それ以外の観光資源に乏しい墨田区としては、観光やサービス業も成り立たなくなってしまう。そのような危機感から、一昨年に産業振興マスタープランを作成し、その中で従来の「薄く広く」という産業振興政策から、積極的な挑戦をする事業者さんを積極的に支援する。という政策方針の転換を行い、その一環として、この新もの作り創出拠点整備補助金という制度が生まれました。
この補助金は、拠点開設のための費用について、上限2000万で補助率10/10という画期的な補助金です。その代り、ランニングの費用については各事業者が自己のリスクで運営して、最低5年は運営していただく。という条件になっています。
有薗 有難うございます。この2000万では当然投資は収まらないのですが、補助金があることで大きく一歩を踏み出す事が出来て感謝しています。
最後に、日本一入居が難しいインキュベーション施設となっている、台東デザイナーズビレッジの鈴木村長お願いいたします。
鈴木 台東デザイナーズビレッジは、創業したてのファッションデザイナーが入居して、3年間の間に事業として成立する状態まで持って行って卒業をしていく。という創業支援施設です。現在、応募倍率が10倍くらいになっています。
手づくりクリエイターから、職人・工場に生産を移行して、ビジネスを拡大していきます。宝石をデザインしているけれど、宝石を磨いている所を見たことがない。洋服をデザインしているけれど、布を織っているところを見たことがない。そんなクリエイター達を、生産現場に連れて行って、飲み会をやって関係を作っていく。そう言う事をやっていると、例えばネクタイ。クールビズのせいで大変な苦境に陥っているわけですが、その織物工場とコラボして、女性でも結べるネクタイをデザインして商品化して話題になる。と言ったことが起きてくるわけです。
事業を拡大して卒業したクリエイターたちの大半が、地場の製造業の人たちの接点を継続したくて、ビレッジの周りに残ってアトリエをオープンさせています。御徒町から蔵前のエリアがカチクラと呼ばれて、若い才能あるクリエイターが集まる町になっていきました。
有薗 有難うございます。デザイナーズビレッジは地域産業とクリエイターがいい形でコラボレーションした成功事例だと思っていて、私がこの場所でシェアオフィスをやったらいいのではないか?と思ったきっかけも、鈴木村長のプレゼンテーションを聞いたことにあったりします。
さて、クリエイターが工場にある製造現場の人が気づいていない価値を見出す。というお話しがありましたが、そのような取り組みについてもう少し詳しくお聞かせ頂けますか?
鈴木 工場の職人さんたちって、真剣に仕事に取り組んできて素晴らしい技術を持っている。でも、その持っている価値に自分たちはあんまり気づいていないのだと思います。「指示してもらえればその通り作りますよ。」という感じになっている。しかし、クリエイターはその町工場が持っている、モノづくりの価値に気づくことができます。
だから、現場にクリエイターが出かけて行くと、カラーチップに合わせることではなく、「どうやったら一番お客さんが喜ぶ色になるか」と言う事を真剣になって一緒に議論している。そんな事が大切なんじゃないかと思います。職人さんたちはもっと技術に自信を持った方が良いですよ。
有薗 確かに、いまここでPAを操作している彼は、印刷のリーダーなんですが、彼がco-lab墨田亀沢のショップカードを印刷するにあたって、この柱のグレーと同じ色で刷ってみようという話しになったのですが、この柱は黒に赤がまじっているんですね。言われればわかりますが、毎日色と向き合っている彼だと、すぐに色の成分を理解して、その通りの色を作ってしまう。そういう技術って、本当は大切なことなんだと思いますし、その価値にメーカー側が気づく必要がありそうですね。
田中さんも、横浜で取り組まれている事例は、地域産業にクリエイティブな側面から光を当てるという意味でとても面白いと思うのですがご紹介頂けますでしょうか。
田中 横浜市の委託を受けて、ビジネス・クリエイティブ・ヨコハマというプロジェクトを進めています。行政がデザイナーやメーカーに補助金を渡して活性化させるという取り組みは全国で行われていますが、それだけではなかなかうまくいかないと考えていた横浜市では、我々にメーカーとクリエイターの間のコーディネーター役を依頼してきました。co-labメンバーの中に、無印良品の商品開発の責任者だった人や、経営コンサルの人もいるので、その人たちがプロデューサーとして入り、商品の流通や事業計画まで含めたコンサルティングをしています。先日は、その取り組みで生まれたプロダクトのお披露目のイベントを実施しました。
有薗 有難うございます。ちなみに、今日のパネラーは田中さん鈴木さんという私服のクリエイター組と、私と郡司さんというネクタイを締めた地域産業組と別れていますが(笑)。行政と言う地域産業を見守る立場から見て、墨田区はもの作りコラボレーションなどクリエイターとのつながりを大切にしているように見えますが、その辺はどうお考えでしょうか。
郡司 行政の私が言うのもなんですが、墨田区は「設計図さえあれば、設計図以上にいい製品を作るよ」。という会社が多いと思います。しかし、それでは上手くいかない。だからこそ、新ものづくり創出拠点整備事業では、①コミュニティの醸成、②人材育成、③異分野マッチング・イノベーションの促進。という目的を掲げて、新しい視点を区内のもの作り事業者さんに取り込んで、既存の技術と新しい視点との間での化学反応を起こして貰いたいと思っています。
その意味で、今年も新もの補助金は実施します。今までの2年間は1回の募集で2拠点の採択でしたが、今回は大盤振る舞いで4拠点を募集します。是非ご検討下さい。
有薗 ありがとうございます。化学反応という大変面白いキーワードが出てきたので、そこをもう少し深堀りしてみたいのですが、この化学反応はどのようにしたら実現できるのでしょうか?
田中 クリエイターと言うのは、そのプロジェクトの社会的な意義だとか、自身が真に面白いと思うなど、共感するテーマに出会うと、とにかくのめり込んでしまうところがあります。この墨田亀沢のプロジェクトについても、印刷会社が10年で4割も減っていることに対して、印刷という文化継続のために何か自分たちが貢献できるのではないか?という思いが出発点にあります。そのような目的の設定と言うのが企画側の重要なことで、クリエイターから見た時の必要条件のように思えます。
鈴木 クリエイターも職人もノリノリになって一緒に楽しめる。と言う事ではないでしょうか。その意味では、クリエイターも、もっと歩み寄る必要がありますが、職人の人も、「訳のわからないこと」を言うクリエイターに、歩み寄ってもらう必要がある。相手の理解が大事です。突拍子もないかもしれないけれど、今までにない新しい価値を出すのがクリエイターですから。
郡司 そう言う意味ではメーカー側も受け身ではいけないかと。
有薗 非常に盛り上がってきたところですが、時間の制約もあり、最後に皆さんからこの分野での今後の展望についてお聞かせください。
田中 ここから、町工場とクリエイターとのコラボレーションで、1つでも新しいビジネスモデルが出てきてくれると嬉しいですね。
鈴木 墨田、台東という区を超えて、一緒に東東京を盛り上げていっていただきたいと思っています。
郡司 先ほどと重複しますが、このような新しいものづくり拠点をたくさん増やして行きたい。その結果、各拠点が連携し合いながら、墨田区から新しいもの作りを発信していきたいと思っています。co-lab墨田亀沢がその中核を担ってくれることを期待しています。
有薗 私は、一昨年に会社を継ぐためにサンコーに来て、借金の額と市場の環境を見た時に、このままでは親父は引退出来ても自分が引退するまでこの会社は持たないなと。もちろん、今すぐに信用不安になるわけじゃないですよ。でも、前職でも市場が衰退していく中で、新しい価値を見出さないと生き残る事が難しい。ということは実感していました。
すみだ塾という後継者育成のセミナーがあり、そこに私も参加していたのですが、そこを卒業して、親父が作った会社を今の時代に合わせて方針転換させて成長させられた後継者には大きく3つの方向性があります。1つ目は海外に進出して、製造や販売の拠点とすること。2つ目は自社ブランドを持つこと。3つ目は技術を深掘りして誰も作れないものを作る事。そのどれもが印刷会社には当てはまらず、どうして行ったら良いかわからずにいました。
そんな中で、自社の持っている施設やノウハウを活かして、このような取り組みが出来るのではないかと考え、区のバックアップも頂き、オープンを迎えることができました。まずはクリエイターが使いたい環境を整え、ここに多くのクリエイター集まって頂き、印刷会社とのコラボレーションを引き起こしていく。そして印刷会社に限らず地域でもの作りをしている人たちとクリエイターを繋いで、新しい価値を現場から見出していく。その結果、この地域が活性化していくことに少しでも貢献できればと思っています。
今日は有難うございました。

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